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第72話 葛城静司という男④

Author: 花柳響
last update publish date: 2026-07-10 06:01:26

「……分かってる」

 律の声は低かった。

「……ひとつだけ。九条家の中で、私が最も警戒している人物がいる」

「誰ですか」

「九条康生」

 初めて聞く名前だった。

 それなのに、なぜか背中の奥が冷えた。

 柱時計が、書斎の奥で一つだけ針を進めた。

「葛城静司は、その周辺にいた人物だ」

「いた、じゃなく、今もいる」

「そう見てる」

 高瀬さんが送信ボタンを押した。

 短い電子音が鳴る。

 葛城静司の事務所へ、正式な確認メールが送られた音だった。

 私は画面を見つめたまま、唇の内側を噛んだ。

 九条康生。

 葛城静司。

 KMS。

 名前ばかりが増えていく。

 けれど、不思議と足元が崩れる感じはしなかった。

 崩れた場所の上に、ようやく細い線を引いている。そう思えた。

「朝霧様」

 相良さんが静かに声をかけた。
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